2018.01.12
「唾液の働き」
唾液の重要な働きの一つは洗浄作用です。食べ物のカスや口腔内に入ってきた細菌を洗浄・飲み下すことにより胃液や胆汁酸の力を借りて殺菌します。口腔内の性質(pH)をほぼ中性に保つ働きもあります。食後は口の中は酸性になっていますが、酸は歯の表面のエナメル質を溶かしてしまいます。そこで、唾液中には重炭酸塩などが含まれており、その働きによって食後30分くらいでpHを元の状態に戻します。唾液中には酸によって溶け出してしまうカルシウムやリンなどのミネラルが多く存在し、常に歯の修復を行って虫歯の進行を防いでいます。
口腔には食物などと共にさまざまな微生物が入ってきます。唾液には多種類の抗菌物質が含まれており、それらからの感染防御に役立っています。また、口腔には大量の細菌が生息しています。これらの細菌はバランスによって味方にも敵にもなり得ます。唾液には、共生していくために細菌の発育を抑え、バランスを保つ働きもあるのです。
唾液が出なくなったら
唾液は1日に1~1.5Lも分泌され、口の中をぬらしています。唾液が出なくなるとどんなトラブルが起こるのでしょうか?物をかんだ状態で、10分間に10mL未満しか唾液が分泌されない場合を口腔乾燥症(ドライマウス)といいます。現在、国内のドライマウスの患者数は800万人ともいわれ、重度になると摂食障害や発音障害など深刻な問題が生じます。ドライマウスになると、口が渇き、味がよく分からなくなります。さらに、物が飲み込みにくくなり、舌や唇、口腔粘膜に痛みが出ます。食欲が減退し、スムーズな会話ができなくなって、口臭もひどくなります。抗菌作用のある唾液が減少するため、口内炎ができやすく、重症の虫歯や歯周病にもなります。さらに、口腔に常在するカンジダ菌が増殖して口腔カンジダ症になります。そして、全身のさまざまな部位にカンジダ症を起こす原因になります。
ドライマウスの原因は
唾液の分泌量が減少する主な原因は、加齢による唾液腺細胞の減少です。その他、ストレス、口呼吸、不潔な口腔、乾燥した環境などの生活習慣も原因となります。糖尿病、唾液腺などの分泌腺が萎縮する自己免疫疾患のシェーグレン症候群、パーキンソン病などの病気が関係していることもあります。ドライマウスは深刻な病気につながったり、深刻な病気が原因だったりするので、症状を自覚したらできるだけ早く歯科や口腔科を受診することが必要です。唾液には成長や老化防止に関わる因子も含まれていることが分かっています。高齢者でも物をかむ回数を増やし、こまめに水分補給をし、耳の前やあごの下を押す「唾液腺マッサージ」を行うことで唾液の分泌量を増やすことができます。健康長寿のために、多くの唾液が分泌されるような生活習慣を維持することが大切です。
毎日新聞医療プレミアより引用