ピロリ菌(正式名称はヘリコバクターピロリ)は胃粘膜の表面や粘膜の中にすむ細菌です。
感染者は世界の人口の半数、日本では約4000万人と推定されています。
胃の中は胃酸によって強い酸性になっているので、通常の細菌は生きていけません。
ところがピロリ菌はウレアーゼという酵素を出して自分の周囲だけ中和し、すめる環境を作ってしまうのです。感染は胃の幽門(胃の出口、十二指腸との境)で始まり、粘膜を侵しながら徐々に噴門(胃の入口、食道との境)の方に上がっていきます。ピロリ菌に感染してから胃癌を発症するまでには数十年かかります。その間、胃粘膜は徐々に変化していきます。感染後はまず「慢性胃炎」になります。この状態が続くと胃液や胃酸を分泌する組織が減り、胃粘膜が薄くなる「萎縮性胃炎」に進みます。さらに胃粘膜の一部が腸粘膜のようになることがあります(腸上皮化生)。この変化が起こると、胃癌を発症する確率が高くなります。
日本は諸外国に比べて胃癌の発症が多いのですが、そのほとんどはピロリ菌に感染しています。
胃癌は感染症であり、日本人はピロリ菌のダメージを受けやすいと思われます。
感染経路ははっきりわかっていませんが、口を介すると考えられています。感染は通常6歳までに成立し、以後はその状態が続きます。成人後の感染は、多くの場合、海外で起こっています。日本の感染状況は年代が高いほど高率です。親から子へ口移しで食べ物を与える、川や池、井戸水を飲むなどの行為は感染のリスクを高めます。数十年前は離乳食が市販されておらず、上下水道も今ほど整備されていなかったため、その時代に幼少期を送った人は、ほぼ全員が感染しています。
ピロリ菌が引き起こす健康被害を最小限に抑えるには、まず感染しているかどうかを知ることが大切です。これらは血液検査でわかります。ピロリ菌の検査は、胃炎などの症状があれば医療機関で受けられます。症状がない人は自治体や、人間ドックなどの「胃癌リスク検診」(ABC検診)はピロリ菌の検査を含んでいるので利用するといいでしょう。胃癌リスク検診では、2種類の検査の組み合わせで胃癌になりやすいかどうかを判定します。1つは「抗体測定」で血液中にあるピロリ菌の抗体(菌を体から排除する物質)の量を調べて感染状況をつかみます。もう1つは胃粘膜の萎縮の程度を調べるもので、「ペプシノゲン法」といいます。ペプシノゲンは、胃でつくられるたんぱく質分解酵素のペプシンの元になる物質で、胃粘膜に委縮があると血液中の値が低くなります。
これらの結果から、胃癌を発症するリスクを4段階に分類します。
A:ピロリ菌なし、粘膜の委縮なし→胃癌発症リスクは非常に低い
B:ピロリ菌あり、粘膜の萎縮は少ない→胃癌発症リスクあり
C:ピロリ菌あり、粘膜に委縮あり→胃癌発症リスクは高い
D:ピロリ菌なし、粘膜の委縮が進みピロリ菌がすめない状態→胃癌発症リスクは非常に高い
(ただし、除菌をした人は委縮があってもAに分類され、正しく判定されないことがあるので注意が必要です)
A以外の人は定期的に胃内視鏡検査を受けることが推奨されています。
胃癌リスク検診は生涯で1度受けるものです。まだ受けていない方はなるべく早く受けましょう。
気になる方は当院の消化器専門医にご相談ください。

( Communication Magazine from Doctor clinic より )