2017.11.2

「慢性前立腺炎」
前立腺の病気として有名なのは前立腺癌と前立腺肥大症ですが、慢性前立腺炎もよく見られる病気です。前立腺癌は悪性疾患であるのに対して前立腺肥大症と慢性前立腺炎は良性の疾患です。前立腺肥大症は加齢とともに増加しますが、慢性前立腺炎は30~40代によくみられます。
慢性前立腺炎の代表的な症状は、会陰部(陰嚢と肛門の間)や睾丸の違和感、痛みです。排尿痛、頻尿や残尿感などもありますが、前立腺肥大症のような排尿症障害はあまり見られません。
前立腺炎には急性と慢性があります。急性前立腺炎は細菌感染が原因で、悪寒を伴う発熱、排尿痛、全身倦怠感などの症状が急激に起こり、PSA値も上昇します。適切な抗菌薬を用いることで短期間のうちに治ります。
慢性前立腺炎は以前は急性の炎症が慢性化したものと考えられていましたが、感染の経緯がはっきりしないことも多く、アメリカ国立衛生研究所は細菌性と非細菌性に分けています。慢性前立腺炎の多数を占めるのは、非細菌性です。炎症の所見がみられないケースも多数あり、症状がどのような仕組みで起こっているのかまだはっきり解明されていません。炎症がないのに「炎」がついているのは適切ではないとして、「慢性骨盤内疼痛症候群」という名称も提唱されていますが日本では慢性前立腺炎が診断名として用いられています。
主な検査は尿検査と腹部超音波検査です。尿検査では細菌の有無や種類を確認します。
腹部超音波検査では前立腺や膀胱、腎臓の形や大きさ、異常の有無のチェックを行います。
50歳以上であれば前立腺癌と鑑別するために血液検査で腫瘍マーカーであるPSAを調べたり、排尿障害がある場合は肛門から指を入れる直腸診が行われることもあります。
慢性前立腺炎の発祥のメカニズムは未解明ですが、骨盤内の血流のうっ滞が原因ではないかという説が有力です。患者さんは、デスクワーカー、運転手など長時間座りっぱなしの職業や、自転車、オートバイに長時間乗る人に多くみられます。また発症にストレスがかかわっているという指摘もあり、30~40歳代はストレスの多い年代と思われます。
日常生活で注意すべき点は骨盤内の血流を滞らせないようにすることです。長時間座ったままになる時は1時間に1回屈伸運動をしたり、歩いたりして血流を促しましょう。冷えもよくありません。冷たい川の中に入って釣りをするなど下半身を冷やす行為はしないことが一番ですが、仕事上必要な場合はこまめに休憩をとり、冷やし続けないようにしましょう。1日の終わりにゆっくりお風呂に入って体を温めることをお勧めします。またストレスをため込まないようにリラックスする時間を持つようにしましょう。自転車に長時間乗る人は会陰部を刺激しないタイプのサドルにかえるのも一案です。炎症がある場合は飲酒や刺激物を控えましょう。
慢性前立腺炎は良性だから大丈夫と自己判断したり、羞恥心から受診をためらう人も多く見られますが、我慢しないで早めに泌尿器科を受診することをお勧めします。
また、原因がはっきり解明されていないものの患者さんにはつらい症状がある病気で不定愁訴のようなものと考えられていますが、治療法は確立していますので自己判断で治療を中断したりせず、医師と相談しながら根気よく治療を継続しましょう。

健康情報誌より