2018.5.30
「介護を無視してしまう方へ」
認知症の家族が何度も同じことを聞いてくると、それが症状だとわかっていても繰り返されるにつれて優しく対応できなくなっていく……。そのような悩みを抱えている方も多いと思います。そのようなイライラが募ったときに「無視する」という人がいます。認知症や介護の必要な高齢者への対応のほかにも、子育ての場面で、あるいは職場や友人との関係などで「聞こえないフリ」をしてしまうなど、同様の悩みを抱えていると言う人もいるのではないでしょうか。
介護場面における無視は、介護放棄(ネグレクト)に含まれる可能性があります。相手に対して反応しないと、何もしていないつもりでもときに相手を傷つけてしまう可能性もあるので注意が必要です。高齢の人が何度も同じことを聞いてくるのは、認知症の症状として短期の記憶が保てないためです。認知症でなくとも年齢を重ねるにつれて多少の記憶力の低下は避けられません。何度も同じことを聞いてしまう背景には、わからないことへの不安があります。それを家族に確認するのもその人なりの対処行動と言えるでしょう。それを無視されるとさらに不安になり自尊心が傷つきます。
ただし、今回は虐待の問題として取り上げようとしているわけではありません。何度も同じことを言われてイライラしてしまう、優しく対応できない、そうした状況による一時的な無視について「ネグレクトに当たるのでやってはならない」と言われても、そんな事は充分に分かっています。それでも、どうにもならなくて無視してしまうのです。一時的にうまく対応できずに無視してしまうと言う対処は、自分を守ろうとしているとも考えられます。1回1回対応することによって、ストレスを重ねてしまうという可能性があります。やさしく、笑顔で、初めて聞くように、否定しないで、といった模範的な対応ができれば良いのでしょうが、できる時もあればできない時もあります。相手の言動に反応しない、無視をするというのは、イライラに対するその人なりの対処で、自分自身のストレスが爆発するのを防ぐ手段となっているともいえます。しかし、それが最善ではないとわかっているがゆえに、後からそのような対応をしてしまった自分を責めたり、落ち込んだりしてしまうのではないでしょうか。
そこで、不適切な対応を回避するための1つの方法として、先回りして準備しておくと言う対処があります。「受診はいつ?」「ごはんはまだ?」などの訴えに対して「だから!何度も説明しているでしょ!」と言ってしまうような場合は、たとえば、カレンダーにメモをしておき「カレンダーに書いてありますよ」というセリフを準備しておきます。もちろん、状況によって有効な対応が異なると思いますので、自分の気持ちが軽くなるセリフ、相手の反応が良さそうなセリフを探っていきましょう。ほかにも同じ訴えや、昔の話の繰り返しなどは、気持ちに余裕があれば聞いていられても、余裕がないときは聞くほうが滅入ってしまいます。そんなときに使えるセリフを準備しておくのも対策になります。
自分の気持ちに余裕がないと思ったら、ひとりで抱えこまない、身近な人に話して辛さを吐き出す、専門の相談機関へ相談する、利用できるサービスを検討するなど、限界を超える前に負担を軽くする対応が必要です。
出典:朝日新聞デジタル 介護や子育てで「聞こえないフリ」をしてしまう時は