2018.04.07

「睡眠の質」はどうすれば上がるのでしょう 

 

スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所・所長の西野精治先生が、誰でもできて効果的な「睡眠の質」の上げ方をお話しています。気づかないうちに脳は瞬間的な居眠りをしているそうです。
最近は「睡眠負債」という言葉が広く知られてきました。日々の睡眠が足りないことによって、心身に深刻なマイナス要因が積み重なっていく状態のことです。睡眠負債があると日中のパフォーマンスにどんな影響があるのでしょう?
アメリカの学会誌『Sleep』にある実験では、夜勤がある科と、夜勤がない科の医師20名の翌日の覚醒状況を比較しています。タブレット画面に図形が約90回出現する画像を5分間見て、図形が出るたびにボタンを押すというものです。その結果、夜勤のない科の医師達は正常に図形に反応しましたが、夜勤明けの医師は図形が約90回出現するうち、3・4回も数秒間反応できませんでした。何より驚かされるのは、反応しない間、医師達は眠っていたという点です。
「夜勤明けの医師達が陥ったこのような状態を”マイクロスリープ(瞬間的居眠り)”といいます。1秒足らずから10秒程度のごく短い眠りで、脳を守る防御反応ともいわれています。マイクロスリープの怖いところは、ほんの数秒であるがゆえに本人も周囲も気がつかないところ。夜勤や徹夜などの極端な寝不足ではなく、日常の睡眠負債が積み重なることによっても起こる可能性があります」と西野先生は指摘します。
重要な商談中に、料理中に、運転中に、もしマイクロスリープが起きたら…。睡眠負債は日中のパフォーマンスを悪くし、生命が危険な状況をも招きかねません。さらに、睡眠負債は肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病や、アルツハイマー型認知症にかかりやくなるなど、さまざまな悪影響を及ぼすことがわかっています。だからこそ、素早く睡眠を改善することが大切です。
睡眠不足が良くないのは分かっていても、いきなり毎日の睡眠時間を大幅に増やすことはむずかしいもの。かといって週末の寝だめでは、睡眠負債は解消できません。
そこで大切なのが睡眠の「質」です。睡眠の質を上げることができれば、睡眠時間を増やせる方はもちろん、増やせない方でも睡眠負債を解消し、日中のパフォーマンスをより良くすることが可能です。睡眠の質は「黄金の90分」がキメ手なのだそうです。
人の眠りには「レム睡眠」(脳は起きていて体が眠っている睡眠)と「ノンレム睡眠」(脳も体も眠っている睡眠)の2種類があり、それを繰り返しながら眠っています。
寝つくとまずノンレム睡眠が訪れます。とりわけ最初の90分間のノンレム睡眠は、睡眠全体の中で最も深い眠りです。この段階の人を起こすのは難しく、無理に起こされた人は頭がボーっとした状態で目が覚めます。入眠後およそ90分後に訪れるのが最初のレム睡眠です。まぶたの下で眼球がすばやく動く「急速眼球運動」が見られ、このタイミングで夢を見たりします。レム睡眠中、意識はありませんが、比較的簡単に起こすことができます。
このノンレム睡眠とレム睡眠のセットが明け方くらいまでに4、5回繰り返し現れるのが、通常の睡眠パターンです。ノンレム睡眠は明け方に近づくにつれて浅くなり、持続時間も短くなります。逆にレム睡眠は明け方になるほど出現時間が多くなり、浅くて長い夜明けのレム睡眠時に目覚めるのが自然な流れです。睡眠の質を高めるには、”最初のノンレム睡眠”をいかに深くするかということがポイントです。ここで深く眠ることができれば、その後の睡眠リズムが整い、自律神経やホルモンの働きが良くなり、翌日のパフォーマンスも上がりますと西野先生は話します。
逆に最初の睡眠でつまずいてしまうと、どれだけ長く寝ても自律神経が乱れたり、日中の活動を支えるホルモンの分泌にも狂いが生じてしまうといいます。どんなに忙しくて時間がなくても、この大切な「黄金の90分」をしっかり深く眠ることができれば、ベストな睡眠がとれるということですので、ぜひ、試していただきたいと思います。

世界睡眠会議より引用