2017.9.19
「脳死臓器提供」
脳死での臓器提供に扉を開いた「臓器移植法」が1997年に施行されて今年で20年を迎えます。これまで全国で476例の脳死臓器提供が行われ、このうち県内では9例が実施されました。
臓器移植とは、病気やけがで心臓や肝臓など臓器の働きが悪くなり、投薬などによる治療効果も十分に期待できない患者が、最後に望みを託す治療法です。臓器提供者(ドナー)から供与された臓器を患者に移植し、機能が低下した臓器を代行させることで、病状の回復を目指します。
亡くなった人から臓器を提供してもらう方法には二つあります。
一つは、心臓が止まった後に臓器提供する「心停止後の臓器提供」。ただし、心臓が止まると全身に血液が流れなくなるため、供給できる血液が不足する状態(虚血)に弱い心臓や肝臓などは移植できません。心停止後に提供できる臓器は主に腎臓。
もう一つの方法が、「脳死での臓器提供」。脳死とは、病気やけがなどが原因で脳に酸素が流れなくなるなどして、脳の機能が失われた状態のことを指します。自発的な呼吸はできず、人工呼吸器によって心臓や肺などがやっと機能しているため、呼吸器を外すと心停止になります。脳死になる人は亡くなる人のおよそ1%。脳死段階で臓器を提供することで、心停止後では不可能な心臓移植などが可能となります。
国の委託を受け、患者とドナーの橋渡しを行う公益社団法人「日本臓器移植ネットワーク」によると、臓器移植を待って同ネットワークに登録している患者は2017年4月末時点で、心臓593人、肝臓321人、腎臓1万1965人に上ります。脳死での臓器提供者数は年間60人ほどにとどまるので、登録数とはまだ大きな隔たりがあります。改正法後、提供件数が増えたとはいえ、世界的に見ても低水準。人口100万人あたりの臓器提供者数(13年)を比べると、米国の26人、韓国の8.4人などに対して、日本は0.7人に過ぎないとされます。
心停止後でも脳死後でも実施することが可能な腎臓移植は、かつて年間200件を超えていた時期もあります。それが近年では、14年に127件、15年は167件と低迷。明らかなのは、心停止後のドナー数が減少している厳しい現実です。移植登録から腎臓移植が受けられるまで13~16年かかっています。移植を希望しても受けられない患者も多くいます。
移植医療は、患者と医療者だけでは完結しません。国民の理解がなくては成立しないある意味、特殊な医療です。東京女子医大・布田教授は「何もしないと、脳死・心停止となった人の死と、移植を待つ患者の死の『二つの死』が訪れてしまう。しかし、移植医療への理解が広がれば、そこに『一つの生』が生まれる。その意義を理解してほしい」と話しています。
読売新聞、上毛新聞より