わが国における発生頻度は、欧米とほぼ同じ1万7000分の1とされており、常染色体優性の遺伝形式をとります。原因となる遺伝子は、5番染色体長腕にあるAPC遺伝子で、がん抑制遺伝子の一つです。この遺伝子に変異が起こると発症します。
通常100個以上の大腸腺腫をみとめ、10歳代から多発し、年齢とともにがん化率が高くなります。20歳代で約1%、40歳を超えると約50%、60歳までには90%以上で大腸がんが発生するため、的確な診断、適切な時期における外科的治療が必要です。また、大腸だけでなく、胃、十二指腸、特に十二指腸乳頭部にも腺腫を合併し、これらの腺腫もがん化することが知られています。
ほかにも良性病変として、顎骨(がくこつ)骨腫、埋伏歯(まいふくし)、軟部組織腫瘍、胃底腺ポリポーシス、先天性網膜色素上皮肥大(もうまくしきそじょうひひだい)、デスモイド腫瘍などを伴うことがあるので、定期的な検査が必要です。
[症状]
初発症状は、下血、下痢、腹痛、貧血です。
[診断]
家族歴がある場合は、大腸がん発生前の適切な時期に治療を受けるためにも、20歳までには検査を受ける必要があります。大腸内視鏡検査を受ければ診断がつきます。また、遺伝性疾患のため遺伝子検査でも診断をつけることができますが、保険適用されないため、全額自己負担となります。
患者さん自身が発端者の場合には家族歴がありません。全体の約30%がこれに相当しますが、一般の患者さんと同様に、検診で便潜血反応が陽性となった場合や下血などの症状が出てから大腸内視鏡検査を受けることになります。そのため、40歳を過ぎてから検査を受けることも多く、すでに大腸がんが発生している可能性が高まります。
遺伝性疾患のため、遺伝子について患者さんや家族にわかりやすく説明し、心理的なサポートをしてくれる遺伝カウンセリングを受けることも大切です。
[治療]
主となる治療法は外科的手術です。腺腫の数や分布、がんの有無、患者さんの年齢、生活状況などを総合的に判断して術式を決定します。大腸をすべて切除して肛門(こうもん)とつなぐ方法、人工肛門とする方法などがあります。それぞれ一長一短があるので、医師とよく相談して術式を決定します。
(時事メディカル)