2018.5.8
「医療費負担の議論」
現在、高齢者の医療費の自己負担は、69歳までは3割、70~74歳は2割、75歳以上は1割となっています(一定所得以上は3割)。2022~25年には、「団塊の世代」が後期高齢者となり、医療費の急増が見込まれます。一方、医療保険制度を支える現役世代は減少するため、現状では現役世代に重い負担がのしかかります。財務省は、後期高齢者の負担を増やして現役世代の負担増に歯止めを掛けたい考えを持っています。4月25日の財政制度等審議会の中で提案された案の1つは、高齢者が75歳になっても自己負担を2割のまま維持する内容でした。
しかし、この高齢者の負担増の提案に対し、厚生労働族議員らの反発は根強く、来年には参院選があることから政府・与党内にも慎重な意見があります。このため4月27日には、「特命委員会がまとめる報告書は、引き上げ導入の先送りを盛り込む方向で検討に入った」とのニュースが流れ、早期実現を求める財務省の案から大幅に後退する見込みのようです。
財務省はこのほか、賃金の伸びや人口減に応じて医療費の自己負担を自動的に調整する新たな医療保険制度も提案しました。寿命の伸びなどに応じ年金給付額を自動的に調整する年金制度の仕組みを参考にして、医療費の伸び率が賃金の伸び率や現役世代の減少率に基づく想定を上回った場合、自己負担を自動的に増やすことが柱となっています。医療費が膨らむたびに患者の負担増を求めるのは政治的なハードルが高いため、財務省は長期的課題として制度を提案しました。この提案に対しては、日本医師会の横倉会長が5月1日の記者会見で、「経済成長ができなかった場合に給付率で患者に負担を押し付けようという財務省や財政審の提案は余りに無責任だ」と批判しています。
また、現在は、負担能力を所得で判断していますが、今後は所得だけでなく、金融資産等も考慮すべきとの議論もあがっています。ただし、金融資産の保有状況を把握する方法は、現在は自己申告しかなく実効性がありません。金融資産を把握するためには、マイナンバー等の環境整備が必要となります。他に、現在すべての市区町村で設けられている乳幼児医療費助成制度についても、所得制限を設けるべきであるとの議論が行われています。
限りある財源の中から、どういった人に対して、どの程度の自己負担を求めるかは、今後も議論が重ねられていくでしょう。
参考:メディ・ウォッチ、 ミクスonline、 東洋経済online、毎日新聞